Statement
MALLEUS: 拷問の鉄槌
ヴァルプルギスの夜。四月の終わり、魔女たちによる一夜かぎりの饗宴が今年もやってきます。
『Malleus Maleficarum(魔女への鉄槌)』。1486年に妄執的な男によって書かれたこの書物は、魔女への拷問と処刑を推奨し、近世の魔女狩りに大きな影響を与えました。その背景には、印刷技術の普及による同書の流通があります。金細工師で版画職人のヨハネス・グーテンベルクによる活版印刷機はルネサンスや科学革命だけではなく、魔女狩りの拡大にも寄与したのです。
古代ギリシア、ファラリス王の名が冠された拷問処刑装置「ファラリスの雄牛」。作ったのは彫刻家あるいは鋳物師のペラリウスとされています。ときに芸術家や職工は拷問具や兵器を作る立場にもなりました。
幕末から明治、月岡芳年や落合芳幾によって描かれた「無残絵」。当時流行した芝居の殺人場面を描いた血みどろの刺激的な錦絵が人気を得ました。やがて、それは拷問・処刑される女性を凄惨かつ官能的に描く初期「責め絵」へと繋がります。
芸術の生み出すものが倫理的で正しいとはかぎりません。人を痛めつけ、矯正を強いることもあります。あるいは、加虐・嗜虐性に快楽や美を見出すことも。一方、芸術作品の前に立った鑑賞者も、あたかも審問官のように魔女狩りをはじめることがあります。芸術の罪を吊し上げ、矯正し、自らの倫理で断罪したいという欲望。
この展示では「拷問」をモチーフとして取り上げます。一見、美術と相容れない突飛なワードのように聞こえますが、西洋画の伝統における最重要画題のひとつがキリストの磔刑や聖人たちの受難であることを思い起こせば、さほど奇を衒ったものでもないでしょう。拷問を描いた作品なのか、拷問具そのものを作るのか、拷問という概念を作品化するのか、どのように表現するかは各アーティストの自由です。性・暴力表現も制限は設けません。芸術による鉄槌の一撃をぜひ食らいにきてください。
藝術信仰運動「地下之会」
この展示はアートプロジェクト「地下之会」の企画により開催されます。地下之会はアーティストの夕力夕゛ヨウを主軸とした地下芸術運動、およびその定期作品展。公募によって集ったアーティストたちの作品が群れをなし、混沌とした魔術的祭祀空間を形成します。
地下之会 五箇条
- 一、己が藝術を信仰せよ
- 一、己が藝術に神を見つけよ
- 一、己が藝術を規律とせよ
- 一、己が藝術を追求し戒めよ
- 一、他者の神を受け容れよ
Artists
近日公開